シベリアの冬を歩く (2) - シベリアの首都ノヴォシビルスクと、極寒の地ヤクーツクへ -

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実のところ、ノヴォシビルスクという街に特段見たいものがあったわけではなかった。この後ヤクーツクに向かうのにノヴォシビルスク経由の航空券を売っていて、しかも乗り継ぎにほぼ丸一日かかるということで、街の様子を歩いて見られると思ったのだ。「新しきシベリアの街」という意味のノヴォシビルスクはシベリアの首都と呼ばれ、モスクワ、サンクトペテルブルグに次ぐロシア第三の都市でもある。
まず地下鉄に乗り、2号線の終点を目指した。ノヴォシビルスクにはシベリア初の地下鉄が走り、路線長こそ短いながら2つの路線を持つ。
モスクワのそれと同じ型の車両に乗り、終点のゾロータヤ・ニーヴァ駅までは4駅、10分ほどで着いた。ここから地下鉄沿いに、とりあえずノヴォシビルスク駅まで歩いてみようという計画だったのだが、風が強く、数字以上の寒さを感じてこれは無理と判断、尻尾を巻いて地下鉄の駅まで引き返す。早くも、街歩きで時間を潰すプランは無謀だったろうか…と思い始めた。
いったん、1号線と2号線が交差するシベルスカヤ駅まで地下鉄に戻り、そこからレーニン広場まで通りを歩いた。中心部は風が弱く、途中でコーヒーブレイクを挟みながら歩いて辿り着くことができた。すると身体が慣れたのか、それとも気温が若干上がったせいなのか、先ほどのような歩けないほどの寒さを感じることはなくなっていった。
広々としたレーニン広場には、レーニン像とその背後に国立オペラ・バレエ劇場が建つ。ノヴォシビルスクのシンボルと言っていいだろう。
プローシャド・レニーナ(レーニン広場)駅から再び地下鉄に乗り、1号線の終点であるプローシャド・マルクサ(マルクス広場)駅を目指す。途中、シェルターに覆われた鉄橋でオビ川を渡ると、冷気が一気に車内に充満した。シェルターに設けられた小窓から、線路に並行して道路橋が架かっているのが見えた。オビ川は恐らく氷に覆われているに違いないから、橋からそれを眺めたらさぞかし綺麗だろうと思った。
プローシャド・マルクサの駅はショッピングモールと直結していて、周辺はバスがひっきりなしに発着し、郊外とはいえ賑やかな雰囲気だった。
自分は札幌市民ではないのだが、何となく札幌の地下鉄の終点駅(例えば真駒内とか豊住)に似た雰囲気を感じた。実はノヴォシビルスクと札幌は姉妹都市提携を結んでいる。ノヴォシビルスクはシベリアの、札幌は北海道の開発の過程で出来た新しい街という大きな共通点がある。こじつけかもしれないが、自然と街の雰囲気も似てくるということなのかもしれない…と一人ごちた。
モール内のケンタッキーで昼食をとり、地下鉄で2駅、レチノイ・ヴァクザール駅へ戻る。この駅はオビ川にかかる橋のたもとにあって、さっき見た道路橋にすぐに辿り着くことができた。
川面は予想通り白く凍り付き、遠くにはシベリア鉄道の鉄道橋も見えた。寒風が吹き荒んでいるだろうと思ったが、意外と難なく歩くことができた。天気も良く、空の青と白い雪に彩られたノヴォシビルスクの街は、シベリアの首都と呼ぶに相応しい佇まいを見せていた。
結局橋を歩いて往復し、地下鉄でノヴォシビルスク駅に戻った。待合室で休憩しながら冷えた体を温めたあと、線路に跨る自由通路から駅全体を眺めて歩いた。
シベリア横断の最中、この駅には夜に到着したことを思い出した。長い汽車旅では大きな街への到着は待ち遠しく、十数分の停車時間の間に買い出しをし、駅の写真を撮り歩いた。
そのあと郷土史博物館を訪れようとしたが、2006年度版のガイドブックに記された住所にそれらしき建物はなく、携帯で調べて初めてどうやら移転したらしいと分かった。6年も経てば街も変わる…当然か。
現在の博物館は、かつての市役所の建物を利用しているようだ。解説はロシア語しかないが、町が開かれたばかりの、かつてノヴォニコラエスクという名前だった頃の写真や地図など、視覚で理解できる資料が多く展示されていた。しかし、終戦後の展示が見当たらなかったのが残念だった。冷戦、ソ連崩壊といった激動の時代に、シベリアにはどのような歴史が刻まれたのかを知りたかったのだが。
博物館を出て、再びレーニン広場を横切る。イルミネーションで飾られたツリーを撮ろうと空を見上げると、丸い月が浮かんでいるのが見えた。モスクワの空はほとんど毎日厚い雲に覆われているから、月夜を見上げるのは本当に久しぶりのように思えた。
午前中にこの辺りを歩いていたときに、一軒の日本&中華料理店を見つけたので、そこで夕食を取ろうと思った。名前は「イエローグリフ」、英語と同じで象形文字という意味だ。
日本料理屋と言いつつ寿司しか置いていなかったので、食べやすそうな中華料理でチャーハンとラーメンを頼んでみた。まずラーメンは米粉か何かの麺でコシもへったくれもなく、生のキュウリがやたらと青臭かった。そしてチャーハンは炒めたというより炊き込みご飯という感じで、しかもパイナップルが入っていた。酢豚ならいいが、チャーハンに入れられるのは困る。期待などしていなかったが、やはり不味かった。
とりあえず腹は満ちたので良しとして、駅まで20分ほどの道のりを歩いた。気温は一日を通じて-15℃前後だったと思うが、慣れればこれでも気持ち良く歩き回れるものだ。雪がしっかり凍るとかえって歩きやすいし、きちんと着込めば歩いているうちに身体も暖まってくる。
近頃のモスクワのように、-3℃〜+3℃くらいの気温は、道が悪くなってかえって良くない。

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