現代版奥の細道 (1)

夏の東北ツーリング記録その1。

……

朝5時前に目が覚めたので、そのまま身支度を整えて出発。

エアコンがやはりダメになりました。
出発してすぐは問題ないものの、段々風が弱まり、最終的に止まりました。
曇りか小雨がパラつくあいにくの天気も、かえって好都合でした。
逆に快晴だったらと思うと…。

再び国道6号線を北上します。
茨城県と福島県の境に鵜ノ子岬があり、ここが関東と東北の境界と言うことができます。
(それらしきモニュメントの類はありませんが)
その先にある勿来関は、奥州三関の一つと呼ばれています。

いわき市、湯本温泉の公衆浴場「さはこの湯」で入浴。
ちょうど朝8時、オープンと同時くらいに到着しましたが、既に地元の人々で賑わっていました。
湯は大変熱く、地元客すら長湯は厳しそうでした。
エアコンが利かないことを思い出したときには時既に遅し、汗ばみながら再び北を目指します。

双葉郡富岡町と浪江町の間は、原発事故による帰還困難区域を通っていますが、四輪車であれば通行が認められています。
あれから6年、被災地の今の姿をこの目で確かめるのが、今回の旅の大きなテーマでした。

ビデオカメラをセットするため、JR富岡駅の駅前広場に入りました。
富岡駅は津波で駅舎が全壊し、辛うじて流失を逃れた駐車場の入口が、ひん曲がったまま残されています。
一方、JR常磐線は復旧工事の真っ最中で、10月の運行再開を前に真新しい駅舎の建設も進んでいました。
過去と未来の象徴だと思いました。

カメラを回しながら、帰還困難区域を進みます。
途中で止まることは許されず、沿道や建物にはバリケードが設けられ、国道から外れることもできません。
それを除けば、良くある商店や飲食店が立ち並ぶ、普通の国道の風景なのですが、あれから時計の針は止まったままです。

宮城県に入りました。
JR坂元駅の付近から国道を逸れ、より海沿いの道を選びました。
この坂元駅も津波の被害を受け、今は高架駅で再建されました。

市街が壊滅した、名取市閖上の今の姿です。
朝市が有名ですが、街の再建はほとんど進んでいないようでした。

この春に資料館としてオープンした、仙台市若林区荒浜の旧荒浜小学校を訪れました。
荒浜はあの日、最も早く人的な被害が報じられたところだと記憶しています。
「百数十人の水死体が…」と伝えたニュースは忘れられません。

仙台市の東部を縦に抜け、塩竃市から国道45号線に入りました。
時期はお盆休み、松島付近はさすがに少々混雑していました。
仙台と石巻を結ぶJR仙石線も被害を受けた鉄路の一つです。
東松島市の野蒜駅は津波の直撃を受けたものの、駅舎とホームは残りました。
その後線路自体を高台に移設して運行を再開し、野蒜の旧駅舎は「震災復興伝承館」として公開されています。

国道398号線で、石巻市から女川町を経てを走りました。
あまり交通量のない道でしたが、それは沿道の集落が軒並み被害を受けたことと無関係ではないでしょう。
道は再び石巻市に入り、最後に旧大川小学校を訪れました。
悲劇の地としてあまりに有名になってしまった場所です。

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調べると、一見学校らしからぬデザインには設計者の思い入れが込められていたようです。
それが何もなくなった更地の中、無残な廃墟を晒していて、かえって哀愁を漂わせているのでした。
冷たい雨が降りしきり、何も知らないヒグラシが鳴き声を響かせる中、ただ嘆息するしかありませんでした。

「遺構があると思い出す、だから壊してほしい」という人々の気持ちが分かりました。
部外者の私ですら、この景色を見るのは非常に辛いものがありました。

更に国道398号線を走ると、本吉郡南三陸町の中心、志津川付近で45号に合流します。
このあたりで、たまたま同じような行程で北を目指していたフォロワーさんとお会いするということになり、気仙沼まで急行してEF9とEG9を並べてしばし歓談しました。
これまでの被災地訪問、特に大川小で大分気が滅入ったので、楽しい話ができたのは非常に救いでした。

フォロワーさんと別れて夜道を走り、岩手県陸前高田市に入りました。
先ほどの南三陸町や、この陸前高田市は夜になると真っ暗になります。
その理由が、「何もないから」ではなくて、「何もなくなったから」だと感じたとき、いつもの夜道とは明らかに異質の不安がよぎりました。

「帰りたい」-そう思いました。

後日、そんな話を人にしたところ、「それは君に帰る場所があるからだよ」と言われ、ハッとなりました。
そこで日々生きる人々には申し訳ないと思いつつ、生身の体験談として敢えて正直に書き記しておきます。

2011年は未だ終わらず。
かの地の人々にせめてもの敬意とエールを。

カテゴリー: シビック, パーマリンク

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