そしてまた、北を目指す (2) -東北、北海道ツーリング-

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突然大きな揺れを感じた。慌てて飛び起き、電気のスイッチを探し、テレビをつける。仙台の震度は4、震源は福島でもっと大きな揺れが観測されたと速報されていた。場所が場所だけに焦ったが、とりあえず大きな被害はなさそうなので安心した。時刻は午前4時、しかし興奮したのか、再び寝付くまで少し時間がかかった。
6時に目覚ましが鳴る。大浴場で洗顔ついでの朝風呂を浴び、7時から始まる無料の朝食を平らげて宿を出た。
改めて、国道457号線にアプローチした。仙台市西部の郊外から北へ延びるこの道は、確かに田園風景あり小さな峠道ありで変化に富んではいたが、しかしこれと言って強烈な見所があるわけでもないように思えた。ただ良く整備されている代わりに面白くない(と思われる)4号線と比べてということであれば、下道ツーリングのルートとしては楽しみがあるということなのだろうと思う。
大崎市の国道47号線との重複区間付近、457号線から少し離れた場所に川渡温泉がある。続いて東鳴子、鳴子と名湯が立て続けに現れる入口の部分だ。
ここの公衆浴場は人がおらず、入浴料200円を料金箱に入れて入浴する仕組みだ。あいにく財布に小銭がなく、千円札を崩そうと近所の店で飲み物を買うと、「多摩からいらっしゃったんですか?」と声をかけられた。つまらない習性だが、こういう反応を目にすると嬉しくなる。お近付きになったついでに車を停めるところはないか尋ねると、公民館の前に停めても大丈夫ですよと言われた。聞いてみるものだ。
浴場は住宅街の中にあり、一見それとは分からない風貌だ。しかし湧き出る湯は本物で、萌黄色の湯は熱々で長湯するのは厳しく、出たり入ったりを繰り返す。しばらくして地元の人が1人来るまで、これを独り占めできた。
全国区の知名度を誇るのは鳴子温泉だが、その陰に隠れがちな場所ですら、十二分に感動を得られる。この国にはそんな隠れた名湯がたくさんある。これは凄いことだ。
再び457号線に戻った。ここから先は車線のない山道もあるが、走りにくいというほどではない。田園地帯を走っていると県境、岩手県の一関に入る。いよいよ北東北だ。ここが457号線の終点で、ここからは再び4号線を北上していく。
4号線沿いで今回最初の給油を行った。燃費は12.2km/l、エアコンを使っていたとはいえ、ほぼ渋滞のない道の巡航にしてはあまり良くない。走り方が悪いのだろう。
一関の隣は平泉。周知の通り、つい先日晴れて世界遺産への仲間入りをした。震災以降低迷する外国人観光客の訪問に弾みがつくことを願ってやまない。そしてその隣は前沢牛で有名な前沢だ。駅前に前沢牛の寿司なるものを出す店があるという。少し早いが、昼にしようと思った。
前沢駅前の「助八寿し」。本当に前沢牛が握りと巻物で出てきた。少し前のながら東京のデパートの物産展にも出展したという店である。意外と歯応えがあり、そのあと舌でとろける。「陸のトロ」の別名は伊達ではない。わさびではなくニンニクを選んだのも良かった。
少し話を聞いた。震災もさることながら、ユッケの食中毒のダメージが大きかったそうだ。そんな中、平泉の世界遺産登録は吉報で、前沢まで足を伸ばす観光客も増えているという。
しかしこの翌日、岩手産牛肉の出荷制限が始まった。何というタイミングだろうか、上手く乗り切ったのであればいいのだが。
1時間半ほど車を走らせれば県都盛岡である。雫石川に架かる橋の向こうに高層ビルやマンションが立ち並び、都市の空気を感じる。
盛岡といったらやはり冷麺であろう。というわけで、二度目の昼食を駅前の「ぴょんぴょん舎」で取る。麺にしっかりコシと味があって、冷麺のために作られたといった感じだ。どこの焼肉屋でも味わえるメニューだが、本場の格の違いを感じた。
国道46号線は盛岡から秋田へ向かうメインルートである。岩手・秋田の県境にあたる峠付近に、国見温泉という温泉がある。ツーリングマップルには秘湯とあったが、温泉までの道は舗装されているし、到達するのは難しくない。
一軒宿の石塚旅館で入浴を申し込むと、かつて見たことのない緑色の湯が湧いていた。浴槽の底には大量の沈殿物が溜まっていて、妙な成分が大量に入っていると想像できる。不味いですが飲めますとも書いてあったので試してみた。実に不味い。いろんな種類の薬をいっぺんに飲まされた感じがして、しかも苦味が後を引く。ユニークな温泉だ。
再び46号線に戻って、仙岩峠を越えれば秋田県である。峠の麓はあまりに有名な田沢湖だ。傾き始めた西日が湖面にキラキラと反射し、それを眺めながら湖畔を走ると、とても気持ちが良かった。
そこから国道105号線に入り、更に北を目指す。途中の大覚野峠はツーリングマップルでお勧めの道で、交通量も少なく快適に走れた。
105号線の終点、鷹巣で国道7号線と交わる。既に日は沈みかけていたが、今日はこの先の大館までもうひと走りすることにしていた。今日の宿「グランドパークホテル大館」は、市内の7号線沿いにあってすぐに見つかった。
ちょっと遅くなってしまったが、秋田ということできりたんぽを食べられる店を探した。老舗「むらさき」を見つけたときにはラストオーダー直前の時間になってしまい、鍋を一人前とビール、冷酒、うどんをいっぺんに頼んだ。ギリギリに駆け込んだ客にも関わらず、秋田弁で(演技かもしれないが)丁寧に対応し、そして料理を用意してくれた。
ここのきりたんぽは極太で、焼き立てのそれを千切って鍋に入れてくれる。素手だから熱そうだ。鍋に入れる前のきりたんぽを食べさせてもらうと、さしづめ焼きおにぎりのようで、こういう食べ物だったのかと改めて知る。そしてこれを比内鳥の旨味がたっぷり染み出たダシに入れれば、焦げ目とダシが染みた米の部分が絶妙にマッチしていて、たまらなく美味い。〆にうどんを入れて、一滴残さず頂いた。

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